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広島高等裁判所松江支部 昭和31年(く)2号 決定 1956年4月26日

抗告人 検察官

主文

原決定を取消す。

本件訴訟費用の裁判執行免除の申立を却下する。

理由

本件抗告理由の要旨は「鳥取地方裁判所は昭和三〇年一二月七日本件被告人を懲役八月に処する。但し本裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。訴訟費用は被告人の負担とする旨の判決を言渡し右裁判は同年同月二一日の満了即ち同月二二日確定した。被告人たる申立人はこれに対し昭和三一年一月一一日同裁判所に訴訟費用執行免除の申立をし、同裁判所はこれを受理して、申立人に負担を命じた訴訟費用全部についてその裁判の執行を免除する旨の決定をしたものである。然し本件につき刑事訴訟法第五〇〇条第二項所定の二〇日の申立期間は昭和三〇年一二月二二日午前零時より始まるものと解すべきであるから右期間は昭和三一年一月一〇日を以て満了し、同日の終了と共に本件免除の申立を為し得ないこととなる。従つて本件申立は期間経過後になされた不適法のものとして当然却下さるべきである。然るに原裁判所がこれを許容したのは法の解釈を誤つた不当な決定であるからその取消を求める」というにある。

よつて裁判言渡確定に基く訴訟費用執行免除の申立につき刑事訴訟法第五〇〇条第二項所定の二〇日の期間の起算点如何について考へる。判決言渡に対する控訴の提起期間は一四日であつて、その期間の起算は刑事訴訟法第五五条に従ふべく、本件に於て申立人に対して抗告理由冒頭掲記の如き判決言渡のなされたのは昭和三〇年一二月七日の午前九時以後であつたこと本件記録に徴して明であるから控訴期間は同月八日から起算すべく同月二一日の満了を以て右判決は確定する。そこでこの場合訴訟費用執行免除の申立期間の起算点が問題となる。この場合刑事訴訟法第五五条第一項本文の規定を字義通り適用すれば初日は二二日であるから二二日は算入されず二三日から起算すべきこととなる。然しながら同条にいわゆる初日を算入せずと云う趣旨は通常の場合初日は午前零時から始まることがないので、初日をまる一日として期間に算入すると権利の行使者に著しく不利益を来し妥当を欠くからこれを防止しようといふにあること明である。従つて本件の如く初日が午前零時から始まる場合には初日をまる一日として期間に算入するのがむしろ理論上当然である。さればこそ民法では第一四〇条中に「但し其期間が午前零時より始まるときは此の限に在らず」との明文を置いてこの点の誤解を避けた。或は刑事訴訟法に特に民法の如き但書を置かなかつたのは右の如き例外を認めず期間が午前零時から始まる場合でも一切初日は算入しない趣旨と解すべきではないかとの疑問を生ずる余地がないではないが、むしろ前記民法但書の趣旨は理論上も常識上も当然のこととして刑事訴訟法第五〇〇条に掲げなかつたものと解するのが相当である。かく解するに於ては本件につき訴訟費用の裁判執行免除申立期間は昭和三一年一月一〇日を以て満了し、その翌一一日になされた本件申立は不適法なものとなること抗告人主張のとおりである。よつて原決定を取消し主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 岡田建治 裁判官 組原政男 裁判官 竹島義郎)

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